2026.11.02|やさしい動物の分子栄養学
猫のお水を毎日交換しているのに、飲んでいる姿をほとんど見ない。そんな心配をしたことはないでしょうか。猫の水分摂取を考えるとき、飲水器から飲んだ量だけを見ても、実際に体へ入った水分の全体像は分かりません。食事に含まれる水分も合わせた「総水分摂取量」で考えることが大切です。
水は、食事からも体へ入ります
体へ入る水分には、水皿や給水器から飲む「自由水」と、ウェットフードなど食事に含まれる水分があります。さらに、栄養素が体内で代謝される過程でも少量の水が生じますが、家庭で日々観察しやすいのは、自由水と食事由来の水分です。
ドライフードを食べる猫は、水皿からよく飲むことがあります。一方、ウェットフードを食べる猫は、飲水量が少なく見えても、食事から多くの水分を摂っている場合があります。したがって「水皿の水があまり減らない=水分が足りない」とは限りません。反対に、急に飲水量が増えた場合は、単に水分が上手に摂れているのではなく、病気に伴う多飲の可能性もあるため注意が必要です。
2026年の猫の研究で分かったこと
2026年にJournal of Animal Scienceで発表された研究では、健康な猫を対象に、100%ドライ食、ドライ食とウェット食を半分ずつ組み合わせた食事、100%ウェット食の3条件が比較されました。研究施設で暮らす雄猫12頭と、一般家庭で暮らす雌雄10頭が参加し、各食事を2週間ずつ順番に食べる反復測定デザインでした。
結果は、水皿などから飲む自由水が最も多かったのはドライ食のときでした。しかし、食事に含まれる水分まで合わせた総水分摂取量は、ウェット食のときが最も多くなりました。また、猫は食事の水分量にかかわらず、食後に水を飲む傾向が示されました。研究施設と家庭では摂取量そのものに差がありましたが、食事の水分量が変わったときの反応の方向は似ていました。
この研究が示したのは、ウェット食がすべての猫に必須であるということではありません。また、短期間の健康な猫を対象とした研究なので、腎臓病や尿路疾患の予防効果を直接証明したものでもありません。分かるのは、猫の水分評価では、飲水量だけでなく食事の水分も含めて考える必要がある、という点です。
「何mLなら十分」と一律に決めにくい理由
2025年までに発表された32報を整理したスコーピングレビューでは、健康な猫の総水分摂取量は、体重1kg当たり1日約23~51mLと報告されていました。ただし、研究間のばらつきが大きく、病気のリスクが高まり始める最低量は確定していません。
必要な水分量は、食事の種類、気温、活動量、体格、年齢、授乳、嘔吐や下痢、腎機能、内分泌疾患、服薬などで変わります。そのため、数字だけを目標に無理に飲ませるのではなく、その子の普段の飲み方、尿量、食欲、体重、便の状態を一緒に見ることが大切です。
今日からできる、無理のない工夫
新鮮な水を複数の場所に置き、食器はこまめに洗います。広く浅い器を好む猫もいれば、循環式給水器を好む猫もいます。ただし、2019年の健康な猫14頭の比較研究では、静かな水、循環する水、流れ落ちる水の間で、平均飲水量に明確な差はみられませんでした。給水器を替えれば必ず飲水量が増える、とは言えません。器の素材や置き場所も含め、個体の好みを観察しましょう。
ウェットフードの利用や、食事へ少量の水を加える方法も選択肢です。ただし、急な食事変更で食べなくなれば本末転倒です。少しずつ試し、食欲と便の変化を確認します。療法食を使用している猫、腎臓病・心臓病・尿路疾患・糖尿病などがある猫、投薬中の猫では、食事や水分の増やし方を主治医へ相談してください。
まとめ
猫の水分摂取は、水皿から飲んだ量だけでは評価できません。食事に含まれる水分を合わせた総水分摂取量と、普段からの変化を見ることが基本です。急に水を多く飲む、尿量が増える、食欲や体重が変わる、嘔吐や下痢が続く場合は、栄養の工夫だけで様子を見ず、早めに動物病院へ相談してください。
参考文献
- van Diggelen RA, Gillies GJJ, Shoveller AK, Banton S, Kosmal PAL. Water intake and consumption behavior of colony and privately-owned healthy domestic cats fed 100% dry, 50% dry and 50% wet, and 100% wet diets: a comparison of research and home environments. Journal of Animal Science. 2026;104:skag201. DOI: 10.1093/jas/skag201. PMID: 42390131. 原文
- Kosmal PAL, Shoveller AK, Gillies G, Armstrong LE. Diet format, protein, amino acids, salt, and osmolytes, as well as water viscosity, affect water consumption in domestic cats: a scoping review of 32 publications (published from 1975 to 2025) on water intake, hydration status, and related health outcomes. Journal of Animal Science. 2026;104:skaf434. DOI: 10.1093/jas/skaf434. PMID: 41389339. PubMed
- Robbins MT, Cline MG, Bartges JW, et al. Quantified water intake in laboratory cats from still, free-falling and circulating water bowls, and its effects on selected urinary parameters. Journal of Feline Medicine and Surgery. 2019;21(8):682-690. DOI: 10.1177/1098612X18803753. PMID: 30303439. PubMed
- International Cat Care. Encouraging your cat to drink: a guide for caregivers. 公式資料
※本記事は一般的な教育情報です。個々の動物の診断、治療、投薬や療法食の変更を目的とするものではありません。
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